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冗談には裏がある
『冗談には裏がある』(ジュスランがアリアバートに幻想を抱きまくってる話)

「性悪説を知っているか?」
以前、アリアバートに聞かれたことがある。
「人間は元々悪である、というやつだろう。地球時代の思想の一つだ。」
瞬く星々を一望できる公爵専用展望室にはジュスランとアリアバートしかいない。
星を見るために薄暗く設定された展望室で、茶飲み話のひとつとして戯れに交わされた問いだった。
「それと同時代に、性善説というまったく逆の説も唱えられていたらしい。面白いな。そして今なおどちらかの結論は出ていない。」
「アリアバート卿はどちらだと思うのだ?」
「おれか?そうだな……、おれは後者だと思う。」
「なぜ?」
「このおれが公平な人物だという人間が少なからずいるからさ。」
肩をすくめ冗談めかして答えたアリアバートを見て、得心した。いや、得心したような気になっていた。
「なるほど、真実そう思っているのなら、確かにその人は穢れを知らない善人であろうよ。」
そして、自分の都合の悪いことから目をそむける視野の狭い人物だろう。
アリアバートも自分もタイタニアである以上、真の公平さなど捨て去っているというのに。
しかし、その視野の狭さを責められはしまい。
そういう人々が我らタイタニアを支持し、ゆえにタイタニアは盤石なのだから。
ジュスランはアリアバートの答えをそんな人々への強烈な皮肉として受け取った。
「案外、アリアバート公は過激でいらっしゃる。」
「皮肉はジュスラン卿の専売特許ではないということだ。ジュスラン卿はどちらだと思う?」
「では、わたしも性善説を推すこととしよう。」
「なぜ?」
「我々でも、たまには良いことをしたくなる時があるから。」
「タイタニアの利益を損なわない範囲内で、な。」
二人はついに耐えきれず笑いが漏れた。
外の明るい星の輝きに対してうす暗い室内に、二人の笑い声が響いた。
「あぁ、可笑しい。今までのジュスラン卿のジョークの中で一番おかしかった。」
「アリアバート卿の発言の中で一番個性的だったんじゃないか?」
普段ならここまで踏み込んでお互いを貶し合ったりはしないはずなのだが、今の二人にはこのくらいは大丈夫という妙な安心感と連帯感が包み込み、このような物言いも許されるような気がした。
二人の心理的距離がぐんと短くなったようで、まるでそれは昔の、ただの幼馴染のような関係に戻ったようだ。
しばらく二人で笑い合った後、すっかり冷めた紅茶でのどを潤し、その渋さにまた笑いがこみあげてくる。
「こんなに笑ったのはいつぶりだろう。」
「さぁ、いつだろうな。最近のような気もするし、遠い昔だったような気もする。」
「ジュスラン卿のフラットでは、笑い声が絶えぬと聞くぞ。」
「あのお姫様は元気だからなぁ。あの元気にわたしも少々振り回され気味だよ。」
「子どもが元気なのは良いことだ。」
さて、とアリアバートが席を立つ。
「そろそろ、ティータイムも終わりだ。存外、楽しいひと時だった。」
「わたしもだよ。」
「またこのような席が持てるといいな。」
アリアバートはふっと微笑み、扉の外で待機している部下の元へ去って行った。
戦死者遺族への年金支給や反乱首謀者の処刑などシラクサの戦後処理が大方終わったとはいえ、まだテュランジア公国の解体に付随する膨大な事務処理、元公国領・星域の治安維持など、仕事が山積みしているはずだ。
ジュスランはアリアバートの微笑みに妙な引っかかりを覚えた。
しかし、その時ジュスランもまたたくさんの問題を抱えており、戸外にバルアミーの気配を感じていたので、その微笑みの意味を深く考えることはせず、久々に楽しかったティータイムの思い出の一部としてあっさり処理してしまったのだった。

あの微笑みの意味、そして最初の問いの本当の意味をジュスランが知ったのは、それからだいぶ後。
『いんちき戦争』後、ジュスランが天の城から追放されて、病床のアリアバートと再会してからだった。
「けっして他人に憎まれるな。」
母からの言葉をアリアバートは忠実に守り続けていた。
アリアバートは善良でありたいと願う自分にだまされていた、と言っていたが、それは嘘だろう。
この母の言葉が彼女が没し、彼自身が成人した今でも胸に刻み込まれているのがその証だと思う。
実のところ、アリアバート自身が性悪説の最たる支持者なのだ。
アリアバートはあの時タイタニアを支持する民衆ではなく、努めて公平で常識的であろうとする自分自身を皮肉ったのだ。
児戯のような会話の応酬に隠された少しの本音。
お互いの距離を掴みかねていたケルベロス以前は、絶対になかったように思う。
アリアバートはジュスランに気付いてほしかったのだろうか。
ケルベロスの敗戦が彼の何かを変えたのは間違いない。そして、自分たちの立ち位置も変化した。
その変化がアリアバートに本音を言わせたのだろうか。
ジュスランにも、そしてあの藩王にすら悟られなかった彼の本音を。
バルガシュでの二度目の失敗も彼に大きな転機を与えた。
彼はもはや自分を偽ることをやめたのだ。
アリアバートと並んで立つためには自分も同じラインに立つ必要があると思う。
あの午後のひと時のように、それ以上に本音をぶつけ合える位置まで自分が追い付かなくてはならない。
いつのまにか自分の一歩先を歩んでいるアリアバートに、ジュスランは眩しさを感じる。
ウラニボルグと敵対することに恐怖を感じないわけではない。
しかしこのアリアバートとなら、タイタニアの縮小というジュスランの理想を成し遂げられるのではないか、と思うのだ。


《終》



という小話でした。
性悪説と性善説は正確に言うとすこし解釈に間違いがあるんですが、タイタニアの公爵が地球時代の哲学の論理を正確に知っているとも正確にこの時代に伝わっているとも思い難いので、そのまま間違った方向でいきました。

アリアバートは常識と良識で完全武装して、なかなか中身が見えない人だと思う。
ジュスランも中身は見せないけど、のらりくらりと人の視線をかわして結局何も見えないイメージ。
アリアバートが鎧なら、ジュスランは霧?靄?みたいなもので隠されてる。
「気どるな、ばか!」が鎧を脱ぎ去る最後の一手だったんだろうなと思います。
それにしても、ばか!ってかわいすぎる。
小学生の喧嘩みたいな低レベルさがまたいい。そのまま思うにまかせて出てきた言葉らしくて。
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